|
ペットの面倒は最後まで… サンプル
人間を飼うのは初めてじゃない。 だが、いい年こいた中年のオヤジってのは初めてだ。 もっとも、親爺の知り合いの蔵前とかいうのの悪趣味と違って、これはメインじゃない。 入手したいのは、傷だらけでギャンブル狂って悪い病気持ちの雑種犬だが、そのわんこが俺のテリトリーに入りやすいようにお招きしたゲストが、わんこの精神的飼い主と思われる、この遠藤という金融会社社長。 こちらにお連れした当初、それなりの社会的地位とやらにふさわしい、それなりのオーダーメイドの背広に身を包んでいたこの男が、今、身につけているものと言えば、頭から包まった毛布のみ。プライバシーの最後の砦を、必死で握り締めている。 「気分はどうだ?」 戯れにそう問うてみれば、毛布の隙間から、目だけギラギラさせて不機嫌な声で「最悪だ」と返してきた。 まぁ普通そうだろう。 自分の車に乗る寸前に後ろから殴られて、気付いたら下着まで剥かれた素っ裸。簡素なベッドと衝立すらない簡易トイレだけの、ただただ白いだけの部屋に、何日も閉じ込められていたら。 日に2度差し入れる食事に使う食器は、トレーも含め全部紙。武器になりうるものは極力排除した。箸、スプーン、フォークはもちろん使わせない。だから基本的に食事を摂るのは手づかみとなるわけだが、あまり反抗的な態度……もしくは俺の気分次第で、押さえつけて床に這わせ、食器に頭を突っ込ませて、犬さながらに食わせる。 昼夜の感覚を奪うため、照明は煌々と明るくつけっぱなし。 入浴は基本的にナシ。ただ俺の気が向いて、退屈しのぎに観察するとき、くせぇのとむさくるしいのはかなわねぇから、気絶してる隙に黒服に洗わせ、髭も剃らせる……洗うったって、適当に石鹸こすりつけ、お湯をぶっ掛ける程度のもんだから、自分の手で自分の不快なところを洗える分、地底の強制労働施設の方がわずかばかりは人間らしい扱いとも言える。 「おぼっちゃんがお供も連れず、こんなトコに来るとはねぇ……どんな事故が起こったって知りませんぜ」 何もせず放置してるだけでも、たいてい気が狂うような環境へ、更なる負荷条件がついていることを思えば、こんな風に憎まれ口が叩けるくらいの自我を保てるその精神力に、とりあえず敬意は払っとくべきか。 ただそれでも、最初の抵抗を思えばずいぶんと大人しく……おそらく陥落するのも、時間の問題。 「けっ、何言ってんだか。それより俺にそんな口訊いていいのか?遠藤さん。ホントは欲しいくせに」 楽しいお医者さんごっこの時間だ。 俺は持ち込んだ銀のトレーから注射器を取り上げ、中身を押し出し空気を抜く。 注射器が視界に入ると、先ほどから強張っていたベッドの上の毛布の塊はぶるりと震え……そのままカタカタと小刻みに震え続ける。 この手の場面にありがちな、理性と本能の葛藤。 理性は拒みたくとも体が求め……それを必死で押さえつけているのが、ありありとわかる。 「腕、出しなよ。あんたの好きなの入れてやる」 「……だれ…がっ…」 数日前は、同じセリフを吐くにしても、目にも声にも力があった。実際、その頃にこんな風に二人きりで相対したら、注射器を叩き割って凶器にでもして、俺を楯に脱出でも企てただろう。 だが今は、これから起こることのおぞましさと、それと同時にもたらされる快楽の狭間に揺れ、呼吸が荒くなっている……それでも必死で堪え、遠藤はそれまで幾度もしたように自分のくちびるを噛み切った。
表紙がなんとなく紛らわしいので、くどいほど言いますが、これは坊×勇です。
ちなみに本文は読みやすい行間だと思います。 |